父親の夢 

  • 2008.10.23 (Thu)

先日、久しぶりに実家へ帰った。

いつも庭に出て植木の手入れをしている父親が気がついて、嬉しそうに迎えてくれる。

(今日は、どうしたと?)
「イヤ別に」

言葉少なに答えて、メットを脱いで家に上がる。

「アラ、今日はどうしたと?」
ちょうど休みで家にいた母親も、突然の帰宅に驚きながらも嬉しそうに迎えてくれる。

「寒くないね? 何か食べていく?」
「イヤ、すぐ帰るけんよか」

ダイニングテーブルに腰をかけて、置いてあったお菓子に手をのばす。

「冷蔵庫にもお菓子あるよ。・・・ってか、アンタ、痩せたね。ちゃんと食べようとね?」
「うん」

離れて暮らすようになってから随分たつというのに、親にとってはいつでも子供のことが心配らしい。

そしてそれは子供にとっても同じだ。
自分の親に限って歳はとらないと思っていたのに、ある日いつの間にか両親が歳をとっていることに気がついた。
それでも、二人で元気にやっている姿を見ると安心する。

(まだ、バイク乗ると? そろそろ車、しなさい(笑))
私をバイクの世界へと連れ込んだ父も、歳をとってからは、いまだにバイクに乗り続ける私を心配してか、それとなく車を勧めてくる。

「ん゛~、まだバイクでイイ(笑)」
(今のバイク?(笑) 僕は、ああいうバイクは、もう乗れんなぁ(笑))

私の16歳の誕生日の直前に、バイクの免許を取らないかと勧めてきた父。
その時の私には、何故父が私に免許を取らせたかったのかなんて、分からなかった。

父を喜ばせたい一心で試験を受けに行ったが、念願のバイクの免許を手にしたのは、それから数年後だった。

そして自分のバイクを手に入れ、バイクに乗っているうちにようやく分かった。
何故、父が私をバイクに乗らせたかったのかが。
そして、父がバイクに乗っている時から、持ち続けていた夢があったということが。

父が直接話したわけではない。
しかし、そのことに気がついた時には、すでに父はバイクに乗れない体になってしまっていた。
もっと早く私が免許を取っていれば・・・と、今となっては、悔やんでも悔やみきれない。

そしてもう一つ・・・父がいつも口癖のように話す夢。

(これは、無理やけんね、分かっとうと。僕の、夢やけん)
私のツーリングなど、父の夢に比べればちっぽけなものだ。
それほど壮大な夢を、父はずっと心の奥底に秘めている。
年老いて、バイクに乗れなくなった今でも、それは色褪せることはない。

叶えてあげたい・・・自分の夢を話す、父の嬉しそうな顔を見る度に思う。
娘として、ここまで私を育ててきてくれた父への、限りない感謝を込めて。


「んじゃ、帰るけん」
適当なところで切り上げて、メットを取り、外へ出る。

「もう帰ると?用心して帰んなさいよ」
(ゆっくり、しなさいね、バーッと行ったら、いかんよ)
「うん、また来るけん」

二人に見送られながら、VFRに跨がりエンジンをかける。

「ホント、アンタもそうしとったらお兄ちゃんのごたあねぇ(笑)」
「(笑) んじゃね、バイバイ」

ミラーに写る二人を確認しながら、実家を後にする。
角を曲がると、二人の姿は見えなくなった。

VFRを走らせながら思う。
今はこうして好きなだけバイクに乗っているけれど・・・やがてはいつか、自分もバイクに乗れなくなる時がやってくる。
その時がきても・・・はたして自分は父のように夢を持ち続けていられるだろうか、と。

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